悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷

著書:森達也
出版社:岩波新書
発売日:2005年11月18日

 高下駄に法被(はっぴ)、頭には「神風」の鉢巻を締め、ゴングが鳴るや、敵の目に塩をまく奇襲攻撃。 第二次大戦直後のアメリカ・プロレス界で「卑劣なジャップ」を演じて、巨万の富を稼いだ伝説の悪役レスラーがいた。 さまざまな資料や証言から浮かび上がる男の素顔は、現代に何を問いかけるのか――。気鋭のドキュメンタリー作家が迫る。

かつて力道山の勇姿に熱狂したことがある人なら、「グレート東郷」という名前を聞けば、熱烈なイメージを抱くはずだ。 ずんぐりとした体型、常にニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、極悪非道の反則攻撃を繰り出す。 1962年の「銀髪鬼」フレッド・ブラッシーとの一戦は、激しい流血戦となり、その模様をテレビで見ていた老人が何人もショック死している。 白黒テレビの時代に、だ。

1956年生まれの僕は、彼をリアルタイムでは見ていないはずだ。にもかかわらず、なぜかその存在が常に気になっていた。 第二次世界大戦直後のアメリカで「卑劣なジャップ」を演じ続け、悪役レスラーとして不動の地位を築き、そして日本でも「世紀の悪玉」と呼称されながら 巨万の富を稼いだ男。リングを降りても、「守銭奴」など、常に人々の憎悪を浴び続けながら、東郷は、何を考え、何を思い、何を憎み、そして何を愛していたのだろう―― 森達也



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