連載 替山茂樹のプロデューサー日記 No.8
替山茂樹(『森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」』プロデューサー)
■■Dick Leeと関東大震災
シンガポールのアーティストDick Leeのアルバム「MAD CHINAMAN」(1989)が好きで今でもたまに聴く。
カロリーメイトのCMに使われた「Wo Wo Ni Ni」はじめ「ラサ・サヤン」「ブンガワン・ソロ」等お気に入りの中に「リトル・ホワイト・ボート」という曲がある。
このアルバム自体、Dickのルーツを意識させる曲や東南アジアの民謡をベースにした曲が多いため、「リトル~」もその曲調からDickのオリジナル曲か中国南部辺りの民謡かなとぼんやり思っていた。
さて、2020年3月『マルモイ ことばあつめ』の試写会に行った時のこと。
「リトル~」のメロディが韓国語の歌詞で2,3度歌われていて「おおーっ」となった。
韓国民謡だったのか!?
受付に宣伝の細谷さんがいたのでこの曲のことを聞いてみたがわからず。
「わかったら連絡します」とのことだったがいまだに連絡はない。
当時、自分でも検索しまくったのだが全然わからず、そのまま3年が経過。
先日、久しぶりにyoutubeで「リトル〜」を聴こうと検索したら「半月」「小白船」といったタイトルで同じメロディの曲がいくつもUPされていた。
また、この曲が生まれた経緯について記述されているサイトがいくつかあった。
どうやら、
・「半月」は、朝鮮初の童謡集の中の1曲。
・日本留学中、関東大震災に遭うも朝鮮人虐殺を逃れた尹克榮という人が、亡くなった姉や虐殺された朝鮮人を悼んで作った曲。
・その後、中国の朝鮮人が歌詞を中国語に訳した「小白船」が音楽の教科書に掲載され、広く中国に広まった。
ということのようだ。
いくつか見たサイトの中で特に印象的だったのは,以下。
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https://www.facebook.com/groups/6252791341472547/
VIDEO
2023年11月30日19:00~杉並区阿佐ヶ谷地域区民センターで行われた関東大震災ジェノサイドの記100年目の「半月」から
■歌と語り 関東大震災ジェノサイドを記憶する歌「半月」李 政美
作詞・作曲:尹克栄 訳詞:李 政美
※歌詞は著作権の問題があるため掲載しません。
【李政美さんが、「半月の日本語訳詞」を作りながら感じたこと】
訳してみてあらためて気がついたことがあります。1番の歌詞は、明らかに関東大震災で虐殺された朝鮮人と亡くなったお姉さまのことを歌っていますね。
亡くなった多くの魂が天の川(三途の川)を渡って西の国(西方浄土)へ向かって行くという歌詞が深い悲しみと絶望を感じさせます。
そして、2番ではそれでも夜明けは必ず来るという希望を歌っています。深い歌だなあと、あらためて感じました。
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全然、知らんかったぁ。
まさかDick Leeの曲が関東大震災の朝鮮人虐殺と関係があったなんて…。
3年前いくら検索しても出てこなかったこの曲の情報が今年になって急に増えたのは、関東大震災100年だからだろう。
このイベント行きたかったな。
会社で報道業務部のG藤さんにこの話をしたら、長い上につまんなかったらしく、露骨に「経費の締めで忙しいんですがっ」という顔をされた。
デスクのM橋さんに続き、僕のことを敵対視する女性がまた一人増えた。